映画感想「五番町夕霧楼」(1980)

『五番町夕霧楼』(1980)

昭和25年、夕子は家族のために丹後から遊廓のひしめく五番町へやって来た
悲しく辛い遊廓の暮らし
そんな夕子の唯一の慰めは、同じ丹後の小さな寺で育った幼馴染みの学僧、正順でした
どこまでも甘美な夢は、優しさと哀しさで二人を包み
どこまでも残酷な現実は、失望と憎悪で二人を引き裂いてゆきます


松竹の看板女優に名を連ねた松坂慶子とデビュー間もない奥田瑛二が新鮮です

昭和25年に起きた金閣寺放火、炎上事件は三島由紀夫の小説が持て囃されて今なお高い評価を受けていますが
時代に押し潰されながら流されてゆく、人の悲哀を見つめた水上勉の筆致による本作の原作も劣るものではありません

共演者としては夕子を水揚げする呉服屋の主人を演じた長門裕之と、正順の病身の父親役の加藤嘉が飛び抜けて見る者の気持ちを動かします
燃え上がる金閣に狼狽の表情を浮かべる佐分利信の芝居は珍しかったし
粋な姐さんを演じさせれば当時右に出るものは無かった浜木綿子の女将も、印象を残します
物語を文芸作品として函入りハードカバーに仕上げたような田坂具隆監督、鈴木尚之シナリオ(共同)の東映版は勿論評価も高いのですが
松竹のアイドル主演映画を多作していた山根成之と「祭りの準備」やロマンポルノで注目されていた中島丈博のシナリオは、平積みにされた文庫がキャンペーンをする夏の推薦図書のような柔らかさもあって

当時16歳の松坂慶子ファン、並びに風吹ジュンのファンであった私には
大変満足できる一作でした

PHOTOKYO

もっぱら東京で撮った写真の数々

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